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葦笛コレクション Vol.3
折にふれて感銘をうけた詩歌をご紹介しています。


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作 品116                                          2015.1
  くきやかに光と影のみえている
 樹に草に人に夕陽とどきて

               
藤本美知子(砂金

  淡彩のさりげない描写のようでありつつ、夕陽のあまねく届いているその小世界が「光と影」のいずれをも含めてそのままかけがえのない至福に在ることを証 すごときだ。「樹に草に人に」とは、まなさきの嘱目を捉えたものであるとともに、それらの存在が同一次元のものであり、自らもそれらと一体であるとする 作者の意識の所以であろうか。



作品117                                                                                                2015.1
 
 何ものかに急かされているわれに気付く
 夕べひとしきり法師蝉鳴く 


                       沢田 純子(砂金

 法師蝉は別名、寒蝉。秋の深まりとともに「つくつくほうし」という
鳴き声が空を響かう。作者はこの声が満ちわたる夕べのひととき、「何
ものかに急かされているわれに気付いた」と歌う。その理由は具体的な
用事などではないだろう。ただこの季節の移ろいと感応する中に、たし
かに作者はこころ急かされているのだ。ちなみに一茶に次の俳句がある。
「今尽きる秋をつくづくほうしかな」

作品118                                                   2015.1
 
多美さんは胡瓜一本九十円野菜高騰知らず
 に逝きし 
 
                                                         吉田 美樹(砂金


 晩かけがえのない友への挽歌だが、作者ならではの哀悼の表現。もち
ろん「知らずに逝った」内容は胡瓜の価格でなくてもよかった。しかし、
それが共に生きた日常の些細なこと、具体的なものであればあるほど、
友の死を悼む心がきわだつのはたしかだ。


作品119                                                  2015.1
 
遍照の秋のひかりの透りつつ墓石もわれも
影を持つなり
 
                                                        百武 皐月(砂金


 秋のまぶしい陽光は、万象をくつきりと映し出す激しさを秘めている。
そんなあまねく照りつける光を浴びながら、作者は「墓石もわれも」影を
曳き、あられなく在ることに気付くのである。「墓石もわれも」と並べた
てる視点にはどこか自虐的なものがある。