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葦笛コレクション Vol.2
折にふれて感銘をうけた詩歌をご紹介しています。

葦笛コレクションVol.3

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作品84                                    
   若くして逝きし母なれ
その笑顔うかべば私は幼となりぬ

                                                                     一色タマヱ(砂金

 子であった季節と、妻そして母であった季節を比べると、そ
の物理的な長短にかかわらず、子であった季節は遥かにして永
く、いまに息づくものであろう。若くして逝った母を想う時、まさにそのとき幼子となっているのだ。母娘という縁の切ない不思議。


作品85                                  
  ほろ苦き味を好みし母なりし

  先づ一番に香りを供ふ

                          大谷稚枝子(砂金

 いつも亡き母の仏前にお茶を供えておられるのだが、故人は
ほろ苦いお茶を好んでいた。だから、少し濃いめにして供える。
「さあどうぞ」という微かなこころのはやり。そのはやる思い
が「先づ一番に香を供ふ」という歌句から感じられてくる

作品86                                   
 飾らねば箱のひいなは泣くと言ふ
 飾る手鈍し五年を経しも

                      大谷ハマ子(砂金)

 女子の健やかな成長を願う雛祭りの行事。春が来るたびにお
雛様が飾られる。だが、その主役である娘は他界していない。
しかし、作者は「飾らねば箱のひいなは泣く」という言い伝え
をよすがにして今年もお雛様を飾ろうとされる。幽明へだてた
愛娘への切ない思いが歌い上げられた作品。

作品87                                    
 屋にこもり灰色の雪見上げれば
 止め処なく降る地までの空間

                       沢田 純子(砂金)

 屋内にいながら窓越しに雪を見上げ、ただただ落ち来る雪の密
かな激しさ、その無心のさまになぜか魅了されているのであろう。
どこか鬱屈した孤独のけはいがするが、とめどなく降る雪に対す
るおののきが、心理を表す概念語ではなく「地までの空間」を指
し示すことによって見事に表現されている