裸 灯


しづけさといふは盈ちたる明かりなり空のうつろに独りごころに


身のふかく伏流のごときを蔵しゐむ空へとかへる朝のちからに 


ねむりとは墜ちてゆくこと究極はこころの底にひらく空へと


現し世のあまねき陽光の明るさにきはまりしいろ白梅のしろ


お彼岸の陽のほとぼりに息づける己れまがふなく花蕊のたぐひ


花の夜のうすくらがりに踏み入りぬ裸灯のごときこころ抱へて


いつの世になしたる過誤のかたみなれゆめの川辺の立ち枯れの木


樹のかたへまなこつむりて佇めばからださだむる重心のなし


まなうらにひかりの斑ゆれゐたりいかなる飢ゑの抽象ならむ


地を跳ぬる雨のほむらを見てをればかくれもあらず無明塵心


蒼天よりそそぐ音なき音ありて身のうちひびかふいつぽんの弦


空翔くる鳥にしあれば聞こえゐむ夕映えといふ大音声を


白砂を踏みゆく音の幽かなりこの身はこぶは生死もろとも


寂しきは直立のさま なほ高く遠きを望むにんげんなりて


樹に花の咲くこと不思議ならざればいかにありなむひとに咲く花


「砂金」2009 5月号 巻頭詠


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