風のしらべ


天涯へ風のさざなみはこびゐむ来たりては去る鳥影あまた

花といふよろこびひらく朝方はつねにし風の熄みゐたりけむ

花芒のもつれほどきてわたりゆく風のあてどは海のかがよひ

白梅のつぼみひそかにそよぎをり訪れゐるは神やもしれず

ゆくりなく葉ずれの音のすぎしのち身のうちふるふひとはりの弦

覚えなきわが名を呼ぶはこの空のむかうのそらよりわたり来し風

眠りから醒めてしばしも続きをりむなぬちの洞わたる風の音

海風にひるがへる帆のごときものわが終のあさ胸処にあらむ

星空より圧しくるけはひいつしらに酔歩を急かす風となりたり

耳の朶にひんやりふれて還りゆく風のあなたに星くづの海

風てふは幟はためく音なりぬこころを吹かばいかなるうなり

昨夜たしか枕辺すぎし風あらむ道ばたに朱のはなびら散れり

師とあふぎし人の遺文の行間に吹くかぜ山羊の乳汁のにほひ

虚ろとは盈たさるること大空に風の韻ありいはむやこころに

風媒のはなのごとくに生まれこむ詠み人知らずのよろこびの歌


「砂金」2012 5月号 巻頭詠


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