冬の象り
冬麗のそらの蒼さに映ゆるものなべてましろき象りなりぬ
冬のひかり聚めてしろき山茶花は生死のそとのしづけさにあり
風花のゆくりなく舞ふひとときをあかるみにけり宙もこころも
現し世に乖(もと)るがごとく地に落つる朴の落葉はまつたきかたち
これの世にいかなる名残りとどむるやひとり逸れて咲く冬桜
とほき日の風やも知れず木犀の金の十字をこぼすこのかぜ
陽だまりのベンチに在ればうつしみを持たざる者ら隣りあふごと
まなじりに水面のひかり乱れゐつたしかに聞こゆ妣のしはぶき
ちちははに抗ひし日も遥かなりちぎれし楽譜のゆくへ知らずも
白鷺のまつすぐ海辺に立ちゐたりわれらに見えぬ遥かを臨み
冬うらら水鳥なれば聞こえゐむ空と海とのひびきあふ音
雲間より陽のさしきたる須臾にして裸形の木立かげを正せり
凍星のちさき煌めきあふぎなば眉間かすかに疼く点あり
石壁にうつる矩形の己が影みしらぬ人のけはひなりけり
陽だまりにひとつまろべる石の塊ひたぶる放下かくもあるべし
「砂金」2018年1月号 巻頭詠 |