冬日向 うつらうつら籐椅子もろとも移りゆく彼我のわかたぬ冬の日向へ 明るさをひろげてはしる冬しぐれ有縁無縁のなべてのうへに 繭ごもりといふほどならず午睡よりまだ覚めやらぬこの身の火照り 鳥のこゑ睡魔のあはひつづきをり此の世の貌にもどりゆくまで 冬うらら地に生ふものに翳りなし異生羝羊のこころすらだに 昼の月うかぶる空とひびかふは冬木にやどる朱の返り花 散り急ぐことわり知れず陽だまりにましろさざめく山茶花のはな しづけさはあまねき光のゆゑならむ友の逝きにし冬の朝も 鵙のこゑひとすぢ奔りしのちのそら金輪際の悲の器なり とこしへの夢をたがへし返り花ひつきやう人の死てふ開花も 存念のあるべくもなし朴落葉まつたきかたちに枯れゆくことに 忌み枝を剪られくろずむ幹の瘤にんげんなれば「我」てふもこぶ 冬麗の空にうきたつ裸木の枝のひろごり余剰のあらず 冬陽さす坂のなかばに歩のゆるぶきのふもあすもなきが思ひに 目を瞑り西日にむかへばまなうらはたちまち響動むくれなゐの海 歩道橋わたらむとしてかろきかな生死一対はこぶわが身の よろこびはかく約しけれ陽を浴びて色あたらしき柊の花 砂利道を踏みゆく音の幽かなり今生のいのちまろびゆくおと 万の葉の打ちあふひかりに紛れゐむ永遠といふものの耀ひ 先の世に掛けし願ひのありやなし陽のほとぼりのこのうつしみに
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