風 韻
はなひらく一日花のしづごころきのふもあすも識らざる清ら
語りえぬ美しきことわり譬ふれば海よりも濃きあさがほの藍
傷みたる桔梗のつぼみの匂ふごと歌はこころの傷痕に生ふ
こずえより紅葉いちえふ落ちきたり無心といふは放たるること
草叢にひんやりこもる風のあり紙に記されし歌句のすきまにも
月光にしろじろかがやく干潟なれ夢よりさめしのちのゐどころ
澄みゆきて無碍にひろごる空の青 澄みゆくはただ黙すことなり
ありなしの風に後れて風鈴のひそか鳴り出づ わが歌もまた
鰯雲のましたに熟るる柘榴の実あふぐ我が貌ひとにあらざり
むなぬちに一羽の鳥の宿りゐむ空のむかふのそら翔くるため
秋天よりはる圧しくる風韻とひびきあふこと歌とさだめむ 風花のながるるあはひ紛れをり詠み人知らずの哀歌のひびき
虚ろとは盈ちわたること大空に風の生れたりいはむやこころに
歌のことば透きとほりゆけ見ゆるもの見えざるもののけぢめなきまで
言の葉のむかふの静寂(しじま)みぢろぐは見覚えのなき旅人のかげ
「砂金」2017年 1月号 巻頭詠 |