地の花
はろばろと夢をたがへて咲き初めし桔梗のあをに夜の匂ひあり
あさかぜに枯紫陽花の鳴りゐたり枯れゆくちからうちより来たる
けふを咲くのぞみに伸ぶる朝顔の蔓のたぐひをわれら持たざり
紺碧の空に聳ゆる朴の木に寄りゐるわが貌ひとにあらざり
幼日の記憶の尽くるうすやみにほのめくましろ十薬の花
道端にゑのころ草の揺れゐたり有為と無為にかかはりあらず
雲よりもましろき色をつらぬきてひかり零しぬアカシアのはな
にんげんの頭蓋が花であるはずなし一茎一花の向日葵のごと
八苦てふこころをはこぶ坂のみち凌霄花の黄ほとびてをりぬ
晩夏光ひらめくまひる夾竹桃のざざめきゐたりわが血脈も
夢見では辿れぬみなもとありぬべしたとへば露草そのふかき藍
ひともまた身ぬちに点す灯のあらむカンナの花のほむら揺れざり
ゆふやみに枝さしかはす猿すべり餓鬼の手足の影をなしたり
花芙蓉しほれしのちのゆふまどひあてど知らざる郷愁のごと
ひとすぢのコスモス風に吹かれをり寂しさてふもひとすぢの揺れ
※「砂金」2001.11月号・巻頭詠
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